新・こだわり派宣言 「技」にこだわる

今回、ご紹介する「こだわり派」は、
木地師の技を継承する「匠」の1人・小椋正美 さん

東近江市蛭谷町196
TEL:0748(29)0430

 分け入っても分け入っても青い山、とはこのことだろう。京都市内から車を走らせてたっぷり2時間。鈴鹿山系の内懐まで入り込んだつもりが、目指す旧・永源寺町蛭谷の集落(滋賀県東近江市)は、まだ遠かった。
 蛭谷には、木地師の技を継承する「匠」の1人、小椋正美さん(78)の工房がある。蛭谷と、その奥の君ケ畑集落は木地師発祥の地とされるが、地元の現役木地師は小椋さんを含め今や2人だけ。1200年続く匠の技を、今のうちにしっかり見ておきたかった。
 お椀やお盆、しゃもじなどの木工製品造りに従事する木地師の歴史は、平安時代まで遡る。京の都からこの地に一時、隠棲された文徳天皇の第一皇子、惟喬親王(844〜897年)が貧しい人々の暮らしを見かねて、木工の技術を教えたのが始まりと伝わる。
 谷あいにわずか7軒が身を寄せ合う蛭谷集落をやっと探し当て、小椋さんの工房を覗いた。広さ4m四方ほどの狭い空間に裸電球が一つ下っている。モーターのスイッチが入ると、轆轤(ろくろ)の軸に固定された丸いケヤキの用材が勢いよく回り始めた。用材の中心に細長い鉋の刃が当てられる。ドロドロドロッと、鈍い音が響き鉋屑が工房内に吹き上がる。用材という暴れ牛を、小椋さんが角を掴んで組み伏せているかのようだ。体重を乗せる轆轤棒と鉋を巧みに操る小椋さんの左腕に、鉋屑が積みあがっていく。轆轤が回っている間は、払いのける余裕とてない。木と人との真剣勝負だ。約20分でモーターが止まる。「荒仕上げを終えた」という用材は、胴に見事な湾曲を持つ菓子器に変身していた。
 「採算を考えとったら、この仕事はできん」。中国産などの安い外国製品に押され国産の木工品需要は激減した。小椋さんが仕事を続けるのは、木地師の里としての伝統を絶やしたくない一心からだという。匠は、伝統の技術とともに、歴史ある集落の存続に強くこだわっていた。
 両手指に深いひび割れと皺を刻んだ小椋さんの話を聞きながら、工房の裸電球がいつまでも灯り続けるよう、願わずにはいられなかった。


「涼」にこだわる

 鴨川右岸に小麦色の帯が走る。納涼床に張りめぐらされるすだれの列。二条大橋から五条大橋辺りまで縦に続き、一本の涼線を形づくる。京の夏に、なくてはならぬ演出だ。
 王朝時代の宮中寝殿にかけられた御簾(みす)が原型とされる日本のすだれは、手編みの「京すだれ」をもって最高級とする。むきだしのコンクリート壁やアルミサッシ窓も、京すだれが一枚かかるだけで風情と涼味が加わり、無機質や殺風景は一気に和む。
 すだれの材質には竹とヨシ、ほかにガマ(蒲)などもある。かつては、青竹を細く割った青すだれが多かったが、いまはほとんど見かけない。納涼床の鮮やかな小麦色は、ヨシすだれが生み出す。澄んだ色合いを出すために、倉庫で数十年寝かされるヨシ材もあるという。
 目隠しになって日差しを遮り、風をよく通せば、合格点とされるすだれだが、本場の京都ではそうはいかない。見た目に涼やかで、清々しく、色合いよく仕上がっていなければ満足しない。京都人の「涼」へのこだわりだろう。日に焼かれ茶褐色に変じたすだれでは、同じ納涼床でも足を入れるのをためらってしまう。
 庶民の暮らしに、すだれがなじんだのは、室町時代といわれる。以来、ざっと700年。京の街々で今も利用されるのは、近隣との関係で重宝するからだ。家の内を開け放っても、すだれ一つで外からは見えず、内からは外が透けて見える。軒を接するご近所と、プライバシーを守りながら、ほどほどの間合いで付き合ううえで、これほど有用な生活具はない。
 「簾(すだれ)越しなればつくづくと見つつあり」は、加藤楸邨の秀句。じっとりとした暑さの季節、すだれがもらたらす涼に身を委ねてみたい。

■写真キャプション/暮れ時の鴨川納涼床。すだれとぼんぼりの灯が情趣を盛り上げる。


和詩倶楽部 廣谷 真由さん



和紙の可能性をひらく

 12年間、和紙に魅了されて没頭してきた。照明も、和紙を通すと柔らかい。淡い陰影となって灯りを映し、涼しげな一風が吹き抜ける。
 「紙がその上に乗せて運ぶのは文字だけではありません。素材となった草木の息吹、土の匂い、それを手にする人の手の温もり…。それらすべてを運ぶからこそ、植物の繊維を薄く広げただけのものが、強く人の心をとらえると思うんです」と熱い。なるほど、日本伝統の和紙は楮、三椏、雁皮といった素材のしなやかさを生かし、何にもまさる情報媒体としての魅力を備える。
 和紙に向かうと、デザインへの意欲がふつふつと湧いてくる。季節ごとに色と素材に変化を持たせ、すいたばかりの紙の上から水滴を散らすと、雨上がりの風情が浮き上がる。春先には竹を挟ませ、秋には落葉を舞い散らせる。冬には炒ったコーヒーを点描することで温もりを抱かせる。
 「和紙って、本当に可能性に満ちています。衣装文庫といった伝統的な和紙製品だけでなく、あらゆるインテリアや店舗ディスプレイまで、生活のさまざまな場面に自由な発想で素材を生かしていきたいですね」。和紙発信にこだわり続ける。京都市中京区。
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