宮川町「花傳」女将 武田伊久子さん



淡いオレンジ色の光が、道の両側にぽつぽつと連なる。日暮れて、表の提灯に灯が入った宮川町通。照らし出される格子戸の家並みに、350年続く花街ならではの風情が漂う。
置屋「花傳」は、南北に長く延びる宮川町通の最も南に立つ。4人の芸妓を預かる女将は、なにより花街の「絆」にこだわってきた。
「他人どうしが集まって一つの屋形で暮らす私らは、いわば疑似的家族。太くて強い絆がないと、ばらばらになってしまいます。上下関係は厳しおすけど、一人一人の芸舞妓を周りの者みんなで育てていく。姉になった者は妹の面倒をとことんみる。そこらがよそさんの社会とは違います」。
芸舞妓にとって、花街の内と外にいかに多くの絆を結べるかが成功の鍵になる。「いうたら人の鎖どっしゃろか。網の目のように鎖をつなぐのが大事。その手助けをするのが女将の役割どす」。
女将になる以前、芸妓「小糸」だった時代に「インターネット芸妓の第一号」と呼ばれた。お客さんとの絆づくりに知恵を絞った末に付いた称号だ。ちょうどバブル経済が弾け、花街の客足が急減しているころだった。
「お客さんを待っててはあかん。こっちから提案せんと」。そんな思いでパソコンを習い「小糸のホームページ」を開いた。宮川町とお茶屋遊びの面白さをアピールし続けたところ、全国からアクセスが集中。「花街に興味を持って下さる方、遊びに来て下さる方、新しい宮川町ファンが大勢できました」。
中高生から、「舞妓になりたい」というメールの問い合わせが届くようになったのは、思わぬ収穫だった。実際に、メールがきっかけで花傳の門をくぐった3人は、いま一人前の芸妓に育っている。
女将になって11年。絆を重んじる目線の先にあるのは、花街の将来だ。「素晴らしいこの伝統文化を、生きたままの形で次の世代に渡すのが、私らの務めやと思うてます」。
務めを果たすには、どうするか。「外では、新たなお客さんを増やす人づくり。内では、お客さんのニーズに応えられる人づくり。両方が相まって花街は生き続けられる。やっぱり絆どすなぁ」。
和に徹して伝統としきたりを重んじる花街は、効率とスピード優先の現代に残る異空間だ。しかし、人々はその異空間の持つ優しさに憧れて集まってくる。こだわりを捨てず、時流にながされず、お客さんを迎え入れる女将の凛とした姿。表の提灯に、今日もまた灯が入る。

■取材協力/〒605-0801 京都市東山区宮川筋6丁目377-1
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