新・こだわり派宣言 「音」にこだわる

今回、ご紹介する「こだわり派」は、岩澤 一廣 社長

取材協力:(株)岩澤の梵鐘/京都市右京区太秦唐渡町22
TEL:075(871)1001

 もの悲しい秋の日には、鐘の音がよく似合う。かつて双ケ丘(京都市右京区)の麓に住んだ兼好法師は、朝な夕なに響いて来る鐘の音を聞き比べていたらしい。徒然草220段にこう記す。「凡そ鐘の声は黄鐘調(おうじきちょう)なるべし。これ無常の調子…」。
 黄鐘調は、雅楽にもある古旋律の一つで、西洋音楽のイ短調に当たる。妙心寺の国宝「黄鐘調の鐘」はまさにそれで、天下の名鐘として名高い。7世紀後半に鋳造され、およそ1300年間鳴り続けた。兼好法師も、きっとその音色を聞いたに違いない。「古くから日本人を魅了する鐘の音は、どのように生み出されるのか」。それが知りたくて、京都市右京区の梵鐘製作会社「岩澤の梵鐘」(岩澤一廣社長)を訪ねた。
 「音の良し悪しは梵鐘の肉厚や、材料(銅と錫)の配合割合で決まります。造った後、すぐに鳴らさず半年、1年と置いて養生すると音色はさらによくなります」。岩澤社長は、創業者の先代に従ってこの道に入り約40年。これまでに、およそ5000口の梵鐘鋳造に携わったという。
 材料の銅と錫の配合比率は、ふつう6対1ほど。錫の量が多いほど音は高くなるが、梵鐘はもろくなって割れやすい。頑丈で、しかも顧客の求める音色をつくり出すのは至難の業だ。経験と勘に加え、これまでに製作した梵鐘の音の波形や振動数など、過去に蓄積したデータが物を言う。
 材料が決まっても、梵鐘が完全な形で鋳造されなければ、よい音は生まれない。歪みのない形は「溶かした材料(湯)を鋳型に流し込む火入れの瞬間に決まる」という。流し込みの勢いが強すぎても弱すぎてもだめ。湯の色で温度を見ながら途切れずさっと流すのがコツ。火入れが順当で肉厚が整った梵鐘は、決して音が濁らず余韻も長く響く。
 岩澤梵鐘は、実は妙心寺の「黄鐘調の鐘」とも縁が深い。国宝の名鐘が1974年に引退した際、それに代わる新しい鐘を鋳造。「名鐘の音をそのままに復活させた」と賞賛された。岩澤社長は「聞く人に、いかに安らぎを与えられるかを常に考え鋳造しています」と話す。鐘の音は無常を説くみ仏の声だといわれる。耳と心を澄まして聞けば、さらに造り手の心も伝わってくるだろう。

■写真キャプション
(1)組上がった鋳型(外型)。
(2)鋳型に溶けた銅と錫を流し込む火入れ。1200℃の真っ赤な液体が一気に注ぎ込まれる。
(3)鋳型から取り出した梵鐘は黒鉛を塗って磨き上げる。
(4)完成後、同社の敷地内に置かれて養生中の梵鐘。


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